癒し⑦恋愛③
小路幸也東京公園』新潮社,2006


webの感想を読んで手にとりました。今は亡き母親の影響を受けてカメラの虜になっている大学生・圭司を主人公にした物語。
圭司の趣味は公園にいって写真を撮ることで、特に家族写真を好んで撮っています。そんな折、初島という男性から娘とともに公園を歩く妻・百合香を写真に撮って欲しいと頼まれます。
そんな圭司の日常が透明感ある文体で綴られています。途中で被写体との空気感みたいな話が出てきますが、写真じゃなくて小説でもそれは同じなんだなと思った。読んでる最中のこの透き通った感じは、圭司の性格がなせる技なんでしょう。
うん、小説を読んでいるってより連続した写真を見ているような感覚もあります。見返してみたり立場が変わったりしたら、違う感想を持ってしまう要素が他の作品より多いかも。
写真のように切り取られた日常を彩るのは、被写体となる百合香や娘はもちろん、一緒に暮らしているヒロや変わり者の友人・富永、血のつながっていない姉の咲実など。
百合香を意識し始めたり圭司に向けられた想いを知ったりなどの話題や、後ろから写真を撮っていることに百合香は気づいているのではないかという疑問など、興味を惹かれる話題にぐいぐいと引き込まれます。
でも、それ以外の細かい出来事でも圭司の目を通してみるとなかなかに楽しい。周りの人たちにちゃんとピントを合わせており、それぞれの生き方がちょっとずつ見えてくるところも面白かった。
最後に「まだ途中の日々だけど、確かに。」なんて言葉が出てきますが、この途中って言葉の使い方がすごく好きですよ。ポジティブに生きられそうです。
同著者作品感想
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