心が温かくなりましたヒールxミステリ


辻村深月ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)講談社,2006


辻村さんがメフィスト賞出身だと覚えていたので、てっきりミステリ色の強いものを想像していましたが、想像とは違いました。予想がはずれたからといって、この本自体がはずれではないです。逆に、面白いと断言できます。
ちょっと不思議な能力を持った小学四年生の「ぼく」を主人公にした話。大人びた性格のふみちゃんに憧れる「ぼく」ですが、かわいがっていたうさぎが愉快犯に殺されてしまいふみちゃんは部屋に閉じこもってしまいます。「ぼく」は不思議な力を使って愉快犯を罰したいと考えるわけですが、「ぼく」の力は強くやろうと思えばほとんどなんでもできます。ばれないように愉快犯を殺すことだってできるほど。しかし、「ぼく」は憎くても殺してしまわない心を持っているわけです。同じ能力をもつ先生と出会い、能力の説明を受け、その後どんな罰を愉快犯に与えるのかを考え始めます。
とまあそんなあらすじなんですが、先生と「ぼく」のやりとりに頁をかなり割いていますし、ここが一番の魅力といってもいいかもしれません。二人が会話を交わすなかで、一人一人考え方が違うという冷静な立場から、正解のない答えを丁寧に探そうとします。それこそメジャースプーンを使って細かく計量するように。他の作品を上げるのも変な話ですが、誰の名前を書くのか、そもそも名前を書くか書かないかを悩むデスノートの持ち主、みたいな感じ。「ぼく」は小学生だけども、ライトとは違った意味で頭がいいですしね。
最後には、悩みに悩みぬいた結論とほんのちょっとのサプライズが待っています。先生をはじめ母親やクラスメイトなど「ぼく」の周りにいる人たちは、時に残酷だけれども温かさが伝わってきます。これを読むと、すさんだ世の中だけどまだまだ捨てたもんじゃないなと思ってしまいますよ。お勧めです。
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