息の長いシリーズになりそうですホラーxミステリ


甲田学人断章のグリム〈3〉人魚姫(上) (電撃文庫)メディアワークス,2006


童話を題材にホラーを描くシリーズ三作目。今回は人魚姫をモチーフにした残酷な現代の童話が紡がれています。モチーフがモチーフだからか、今回は泡と音にやたらと目がいってしまいました。最初に手を洗う場面があるのですが、なんでこの一つの行為だけでこうもグロい描写ができるのか不思議です。特に、不意に嫌な感覚に陥いり非日常に踏み込んでしまった瞬間の表現にはヒヤリとしました。実際にそんな瞬間がありそうで。
主人公の蒼衣とヒロインの雪乃、そしてグループのまとめ役である神狩屋は、県外の事件現場に向かう途中で神狩屋の婚約者だった女の妹・千恵とばったり出会ってしまい、妙な方向へ物語は走り始めます。この千恵は潔癖症なのですが、彼女の行動によって最初の手を洗うシーンが思い出されてしまうのでいい気分はしませんでしたよ。比較的軽いとはいえ、狂気に似ているものは見ているだけで不安になります。
婚約者だった女・志弦との過去も語られますが、一体どう関わってくるのか今のところ見当がつきませんね。自分では推理を放り投げていますが、神狩屋の知識と蒼衣の発想による、本質に迫ろうとする推理部分は結構好きです。これまで事件の解決においてあまり役立ってなかったのが、歯がゆいんだけどね。
精神を研ぎに研いで鋭くなったけど脆くなった感じの雪乃も、普通に囚われるあまりに不安定な立場にいる蒼衣も、どちらも危うそうだけど大丈夫だろうか、ともう今からいらぬ心配してます。希望があるとすれば、この不気味な現象と対峙するのが学校などの身近な場所に限定されていないことかな。学校のように普通の生活と接点があると、何となく安心しちゃいますよ。まあ、安心といっても、今回の事件もまだ始まったばかりで終わってないのが気がかりだけれども。最後は惨劇の幕開けとしては上々かな。
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