カエルちゃんが最高!シリアスxヒール


西村悠二四〇九階の彼女 (電撃文庫)メディアワークス,2006


第五回電撃hp短編小説賞銀賞を受賞した西村さんの連作短編集。受賞作をベースにしているのかな? 各階層ごとに断絶された円盤状の階層世界を舞台に、下へ下へと向かう少年サドリと相棒であるカエルの話。小細工無しの直球ズドンなものが多かったです。
九一四階の積層図書館」平行世界で起きたことが全て本に記されている図書館の世界で、記述者の少年・フリオリと情報提供者の少女・オリネラの話が紡がれます。大きな枠組みも把握しなきゃいけないし、階ごとに違う世界の把握しなきゃいけないしでちょっと戸惑いますが、テーマ自体が複雑ではないのでなんとかなるかな。サドリが読んだ本の内容とか色仕掛けとか笑いもちゃんとありますし。各階層を渡り歩くという設定からキノっぽいと思って、途中ちょっと違うかなと思い、けど最後はやっぱりキノらしかった。
九四三階の戦争」ずっと長い間戦争を続けている世界に生きる少女の話。なにやら少女には秘密があるようで。最後までやるせない感じ。さっきキノと似ていると書いたけど、確固たる信念みたいなものを持つキノに対して、サドリがまだ模索中なところに違った面白さがあると思います。
九〇〇階のカエルの国」そのものずばりカエルの国。相棒であるカエルの秘密にも迫ります。緊迫した雰囲気の話が続いていたので笑った。キノのエルメスだとか色んな相棒を見てきたけど、このカエルくんはその中でもいいキャラだ。どの話でもカエルがいい味だしてる。シリアス面でもコミカル面でも。
一〇五六階の幻想」幻想的で不可思議な空間の謎を解く話。この話に限らないけど、全能全知であるはずの神様が、代行機械・アントロポシュカという形で目に見え、意思の疎通も図れるだけに、残酷さやら痛みが伝わりやすいように感じられた。「君は、さっきより、全然綺麗に見えるよ」の辺りとかなんとも。
二四〇九階の彼女」サドリが旅立つ契機となる約束を交わした「彼女」の話。幼なじみのセリを始めサドリの故郷についても描かれています。時間軸的にはこれが一番最初の話ですね。そして、掌編のカエルの話を除けば、最初の図書館の話が時間軸では一番最後の話になっており、過去へ過去へと遡っていく構成になっています。その辺りの試みも成功しているんじゃないかな。
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